3-6.切土斜面の安定性評価

5 トンネルの調査と地出の評価

 路線の計画の項でもふれましたが,ここではトンネルの調査と地山の評価についてもう少し詳しく述べてみます。
 トンネルは皆さんも御承知のように山に穴を掘って路線を通す構造物です。
 しかも最近では山地を出来るだけ乱さない様にするため路線をトンネルで計画する等,難しい箇所に,非常に長いトンネルを掘削しなければならない要請が増しています。
 人々は良く“一寸先は闇だ”と言いますが,土の中こそまさに一寸先は闇であり,地山内部の先々の地質を予測することは非常に難しいものです。
 この様な観点からは山をくりぬいたり,海底を掘削するトンネルの調査には最も地質学的な素養を必要とし,的確な地質の情報が求められる分野と言うことが出来ます。
 また,逆の言い方をするならば,いかに優秀な地質技術者であっても100%正確に地山の内部の情況を予測することは不可能であり,常に何がしかの誤差を含んだものであることも事実であります。
 それならばトンネル地質調査を行うにはどの様な点に気をつけなければならないのか,或いは調査の結果を受け取る側は地質調査の結果をうのみにせずにどの様に留意して使用しなければならないのかについて述べて行きます。

5−1 トンネルで問題となる地質

 トンネルは未固結の地盤や海底地盤等を含め様々な地盤の中で計画されています。
 トンネルの掘進技術は近年目覚ましく発展していますが,堀削が困難な地盤は昔も今も変わらないものです。
 本項では,トンネルの施工時に悪影響をもたらす地質について簡単にまとめておきます。

1)断層,破砕帯(図−140)
 断層も破砕帯も地盤が著しく圧砕されていますので,強庶が低くなおかつ地下水を遮断したり,呼び込んでいることが多いため,大きな問題となります。
 ルー卜を横切るにせよ,沿うにせよ断層がルー卜に近接する場合は常に充分な調査と検討が必要でしょう。

2)不整合(図−137)
 不整合は強度的には断層や破砕帯ほど問題となりませんが,全く物性の異なる地盤が不整合面で接しているため,透水性や変形等に問題が生ずるものです。
 特に不整合面が低角度(或いは水平)に存在する場合などには広い範囲にわたりトンネルと交わるため事前に充分な調査が必要となります。
図−140 断層角礫と凹地
3)軟弱層
 未固結層は勿論ですが,風化や変質,破砕のため軟弱になっている地質はトンネル上方の地盤の荷重を支えきれなかったり,帯水層であったりする場合があり問題があります。
 軟弱層は成因的に種々の場合があり,分布に関する予測も難しいものです。
 地質の専門家と充分に打ち合わせながらの対応が必要でしょう。

4)著しく異方性の強い岩盤や不均一性の強い岩盤
 片岩や破砕している成層堆積岩などでは著しく異方性を示すものがあります。
 また集塊岩のような火山性の堆積岩や古い付加体 注) に起因する地盤には著しく不均質で物性が全く定まらない地盤があります。
 これらの地盤も土工の時にはいろいろな悪影響を及ぼしますが予測は難しいものです。
 この様な場合も事前或いは施工中での地質の専門家との協業が望まれます。


注)付加体:プレー卜の動きによって大陸縁辺部に付加された地塊


5)残存応力や地すべりカなど重力以外の力が作用している地盤(写真−30)
 地盤の中には様々な力が作用しています。
 この中には過去の造山運動の残余の応力が作用していたり,地すべりやクリープ等の地表現象の力が作用している場合もあります。
 残存応力でよく知られているのは山はね現象があり,この現象も含め偏圧の作用する地山は何等かの地質学的背景がありますので充分な地質調査が必要です。
表−30 上越線清水隧道内に発生した山跳ねの部分
 トンネルに悪影響をもたらすものには,この他に温泉作用や地熱,活構造(地震)などがあり,逆に地山が良質で硬い場合等でも,これが過ぎると掘削に困難をきたすなどの問題が生じます。
 いずれの場合も地中のことは予測が非常に難しいものであり充分な調査と検討が必要です。
 次項からは調査で特に注意をしなければならない点にポイントをしぼり述べていきます。

5−2 トンネルにおける地盤構造の想定

 トンネルは山の中深くに計画されるため,中央部など土かぶりの深い部分の調査はボーリング等の直接的な調査は難しく,地震探査その他の間接的な調査方法が用いられることが多くなります。
 この場合はどうしても仮定的な要素が多くなり調査者の解釈や主観が入らざるを得ません。
 これを防ぐため最近では可能な限り先進ボーリングによる確認がされていますが,これも全てのケースとか全区間を行うことはなかなか困難です。
 ここでは,地震探査を例にとって調査手法の限界と結果の解析での留意点を述べます。
 地震探査は比較的広範囲の区間を物性をも含めて手軽に評価する方法としては優れたものですが,これも第2章の4節で述ペております様にいろいろな欠点も持っています。
 ここでは地震探査をトンネル調査に用いる時注意をしなければならない事項をとり上げてみます。
 土木地質の調査では,通常浅層(深度100m内外より浅い)を対象とした屈折波法による地震探査が行われ,トンネル調査の場合も例外ではありません。
 地震探査では地盤は均質,等方性で下位に行くほど速度値が増すことを前提に解析していますが,実際の地盤は成層状況や割れ目の発達によって異方性を示したり,軟質(低速)の挟み層を持っていたり,速度の早い層の下に遅い層が分布する逆転現象がある事は地震探査の項でも述べた通りです。
 トンネルの調査では地山かぶりが一般に厚いため,施工面付近の探度は盲点となり,上述の様な現象のために解析の結果を見誤ることがあります。
 地盤の持つ異方性は主測線と副測線での速度差となって表れることがあります。
 速度差があまり違ったり測線の方向によって速度層の構成が極端に異なる時はこの様な点に疑いを持ってみるべきでしょう。
 異方性が極度に大きいものは一方向での割れ目の開口や地層のゆるみを表している場合が多く,これがトンネル方向と一致する時等は施工時の注意が必要です(図−141)。
 また,低速の挟み層や逆転層がある時は上位の速度値の大きい層のみが把握され,トンネルの施工面付近のデー夕が取れていないことがあります。
 この様な地質構造の場合には測線の配置に充分注意するとともにボーリング孔内,ボーリング孔間,或いは地表
とトンネル内等での直接波測定(扇射法と言います)等を補助的手段に用いて測定の精度を上げる努力が必要です。
図−141 水平方向につながる低速度層(地層境界等)
 また,地震探査で低速度層が検出されている時は注意が必要ですが,地震探査で検出されている低速度帯が地質的には何に由来されているのかの判別は重要なことです。
 屈折波法で行った地震探査での低速度帯は図−142のようなモデルで表示されます。
図−142 低速度層の傾斜
 即ち探査測線上で基盤面を走る屈折波の経路に速度の低い部分がある時に低速度帯が検出されますが,この方向や傾斜までは知ることが出来ません。
 低速度帯がどの様な地質現象によるのかは地質踏査やボーリング調査による地質的な調査の結果を待たねばなりません。
 地質的な情報に乏しい時は低速度帯の延びは垂直方向に表示している場合が多いですが,これは全く便宜的なもので何等意味を持っていない事を知っておくことが大切です。
 このように地震探査で得られるのはあくまでも物性値図であることをわきまえ,これと地質情報を重ね合わせて解釈すると共に地震探査の測線も主測線のみではなく,これと平行する測線や直交する測線を設け,グリッドシステムで調査を進めることが大切です。

5−3 トンネルにおける地山強度想定

 トンネルは地中を掘削して造る構造物ですから,掘削面には常になにがしかの地圧が作用しています。
 地圧の予側は地山の土かぶりによる上載荷重や掘削によるゆるみの土荷重,残存している地質的な構造力や掘削による局所的な応力集中などがあり,一概に想定することは難しいものです。
 ただ単純に考える場合,岩盤のみかけ強度が地山の土かぶり荷重より砥い場合には問題があります。
 それで,掘削レベルでの岩盤のみかけ強度はどの程度のものであるかの評価が委要なこととなります。
 岩盤に全く割れ目が無い場合,岩盤のみかけ強度はその箇所から取り出された岩石の強度をもって代えることができます。
 ただしばしば述べているように岩盤には割れ目があるため,実際にはこれよりはるかに低い値となるため,このような想定は危険であり,一般には地震探査の速度値をも加味した低減率を用いて準岩盤強度という考え方がとられます。



 また,岩盤強度との地山の土かぶり荷重の比を地山強度比と呼んでいます。



 地山強度比をこのように考えた時,地山強度比≫1ならば経験的に大きな問題はありません。
 地山強度比が1を切る場合,特にKく0.5の場合には様々な問題が生じます。
 この様な地山の場合にはさらに測定値や試験値を加えた解析を行います。
 この時の地山の強度評価には第二章で述べた,岩盤の強度や変形性の評価,およびトンネルでの岩盤区分,特に最近提示されたホックによる岩盤評価と分類が有効となります(第二章9節,10節,13節参照)。

5−4 トンネルにおける湧水量の想定

 トンネル掘削の場合,地圧の評価と共に湧水の想定も重要です。
 また,地圧の評価そのものにも地下水が影響するため地下水の状祝を予測することが非常に大切になります。
 地下水がトンネルに与える悪影は表−34のようなものがあります。
表−34 トンネル湧水の悪影響(土木技術者のための地質学,1974年)
原因または環境 直接作用 予想される現象、影響
浸透水 軟岩の軟弱化 地圧増大
破砕帯、岩目の剥離促進 側壁の崩壊、落盤の誘因
粘土の膨張 吸水膨張、地山のクリープ
凝集力のない地山の流動化 地山の崩落、自立作用の防止
湧水帯への接近 遮水壁の破壊 切端地山の崩壊・流出、坑道の埋設
過小排水設備
(完成後もある)
排水不良 坑内環境の不良化、支保工基礎の支持力低下
集中湧水 流速大、水深大 切端設備の水没、作業危険、工事中止
堅杭、斜坑 ポンプ排水 坑内冠水、ポンプ及びポンプ設備の永久施設
地下水の継続的流出 地下水面低下 各種水利用に対し、水源枯渇、利用水位の低下
(農業、酪農、飲料水、船運、漁業)、海岸部の海水進入・塩水化
 山の中にトンネルを掘ることによって地下水条件が変わり様々な影響が生ずることは表のとおりですが,これ等の予測はどのように行うことができるでしょうか。
 通常,地下水の湧水に関する予想は次の3つの立場から行います。

1)地質学的な予想
 地質学的な予想はトンネルが通る岩盤の透水性の予想を地質学的に行うもので岩盤の水密性や開口度を岩種や堆積時代の観点から行います。
 一般に火山性の岩石には冷却時の節理が存在し,この節理の開口性が高いことから透水性が高く,また,火山砕屑岩や固結度の低い凝灰岩,火山活動の合間に堆積している未固結層などは顕著な帯水層になります。
 また,堆積時代では古い時代の堆積層(新第三紀以前)ははとんど水を通さず,地下水が存在するのは断層や破砕帯,風化帯などの二次的な劣化帯に限られます。
 このような二次的な劣化帯の存在や方向性などをとらえるのが重要なこととなります。
 これに対して新第三紀以後の地層では固結度が低く帯水層となっているものがしばしば存在します。
 このような層の連続性や分布をとらえトンネルとの関係を調べるのが重要です。

2)水文学的な予想
 水文学的な予想としては降雨量と流出量,特に渇水時の比流量(単位流域当りの流出量)を調べることが大切です。
 トンネルの上部には大小の沢が存在しますが,これ等の沢で渇水比流出量が他と(或いは一般的な値と)比べて極端に多い場合や小さい場合は何等かの形で降雨→流出と地下水の出し入れの間でバランスを崩している要因があるはずです。
 この要因がトンネル掘削時に影響を与えることが多いものです。
 1)の地質学的な要因とも照らし合わせながら解明する必要があります。

3)水理学的な予想
 地中深くの地山は一般的には難透水性か不透水性になっており,トンネルの全ての区間に地下水が湧出するということはありません。
 ただ,1),2)で述べた特異的な箇所では割れ目の連続性が高く擬透水体(第1章13項参照)となることが予想されます。
 このような箇所での透水モデルは通常の粒状体地盤のモデルと同様の水理学的手法を取ることができます。
 トンネルを掘削することによって生ずる動水勾配や影響圏,透水度などを予想(仮定)して湧水量が算出されます。
図−143 擬透水体を仮定した時の流入

3-6.切土斜面の安定性評価